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産・官・学が共同で進める
「グリーンIT」の現在と未来

社会的にも注目を集めるキーワード「グリーンIT」。Interop Tokyo 2008でも、重要なテーマの1つとして、展示会、コンファレンスともに大きくフィーチャーしています。グリーンITの現状認識と未来への展望について、Interop Tokyoプログラム委員会議長の江崎 浩氏とグリーンITを積極的に推進する日本ベンダーの1つである(株)日立製作所 理事 情報・通信グループ グローバル事業統括の竹村 哲夫氏に対談いただきました。

インタビュー:神保暢雄
写真:池田啓輔(J-CAST)
編集:J-CAST

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グリーンITで取り組むべきポイントとは

竹村氏 グリーンITへの取り組みというのは、すでに社会全体のコンセンサスになっていると考えています。地球温暖化への対応を考えた際に、ICT産業が担う役割として、次のような3つの視点があります。
まず1つ目は、ベンダー本来の業務として省エネ効果の高い機器を提供する、というものです。これは簡単に言ってしまえば消費電力がこれまでの半分になったサーバやルータを提供するということです。また、これらの機器を組み合わせたソリューションも提供する必要があるでしょう。ベンダーが提供する装置そのものを省エネ化するという、非常にストレートフォワードな取り組みです。

2つ目のポイントとなるのが、エコシステム全体を考えた際に、省エネルギーに寄与するものをICTで実現していこうという考えです。たとえばテレワークのようなワークスタイルの変革、RFIDによる物流の改革、さらには自動車による道路の混雑をITS(Intelligent Transport System)で緩和することで、結果的に消費するガソリン量を減らす、といった部分までが含まれます。ICTの利活用によって、利便性の向上を目指しつつ、CO2の排出量削減の面で効果を得るという分野です。

3つ目は、地球環境そのものをモニタリングする仕組み作りです。衛星からビルなどのセンサネットワークに至るまで、さまざまな分野でのICT活用によって電力消費やCO2排出の状況を地球規模でモニタリングし、危機管理や効果測定に役立てるという考え方になります。

これらの3つのポイントすべてに対応していくことが、グリーンITを推進する上で非常に重要なポイントになるといえるでしょう。これは1つのベンダーだけでなしえる話ではありません。例えば物流などは多様な業界・企業が絡む部分ですので、絶えず協力しながら進めていく必要があります。もちろん「産」だけでなく、「学」「官」とも協調して進めていくべきでしょう。

江崎氏 我々はその「学」の分野になるわけですが、3つ目のポイントとされた「モニタリング」の分野では、気象センサを皆で持ち寄って地球環境をモニタリングしようという「Live E!」というプロジェクトがあり、すでにスタートから3年ほどが経過しています。この目的として、まずはモニタリングした情報をオンラインに載せるところからはじめ、最終的にはこの情報を基にしたワークスタイルの変革という展開を目指しています。
その1つの手法がファシリティネットワークマネジメントですが、実際にチャレンジしてみると、私たち「学」の分野がまったく進んでいないことに気づきました。同時に「官」である自治体についても非常に遅れているという印象を持ちました。
企業は経営者がポートフォリオを見て判断しているため、どこでエネルギーを無駄に利用しているかをきちんとチェックする体制が整っています。しかし「学」や「官」では、そういった部分を見る人がいないという問題があるんですね。

この問題に対し、採算を度外視してとにかくはじめてしまえ、という考え方は非常に危険です。ROIを提示した上で、どのくらいの投資をしたらどの程度のリターンがあるか、といった面まできちんと判断するための仕組み、土台の部分から作って行くことが必要だといえるでしょう。そこを「産学官」が三位一体となって推進していくことが重要だと考えています。

江崎氏 今我々が手がけているのは、東大工学部の2号館を実験場としたプロジェクトです。実はこの2号館というのは、東大の中でも非常に電力を消費している建物の1つなのです。単なる省エネ化を行うだけであれば、要求に合致する機器を購入してシステムを構築するだけで理論上は達成することができるはずです。しかし実際のビルで最先端の技術を投入して省エネ化を実現しているところはありません。中でも大学では全くできていない。そこで今年の6月にベンダーをはじめとした26団体の方々と一緒に共同研究コンソーシアムを立ち上げ、この2号館を実験の場として新しい技術の研究を行っていくことになりました。

実はこれまでに、省エネ化の使用前・使用後をきちんと計測したデータはありませんでした。すぐにでも省エネルギー対策を施すこともできるのですが、今回のプロジェクトでは半年間はデータを蓄積することに注力し、その後のフェーズで省エネ化した効果をデータとして取得します。そこで投資した額も明らかにした上でROIを出し、東大全体や地方自治体へ展開する際の指標にしていきたいと考えています。

ここまでに2年ほどの時間をかけて結果を出し、その後は例えば職員や学生全員にRFIDをつけ、より動的なデータを把握するといったアドバンスなチャレンジも行っていきたいですね。

竹村氏 最終的に製品を利用する現場でのエネルギーの省力化は、もちろん重要なテーマの1つだと思います。しかしベンダーの立場から見た場合、どこからどこまでのエネルギー量を対象とするかが、より重要ではないでしょうか。

例えば利用する現場では電力消費は非常に小さい製品があったとしても、製造の段階で膨大なエネルギーを消費していたら、トータルではCO2削減にマイナスになってしまうかもしれません。また利用後の廃棄やリサイクルにかかるエネルギーも、必要な観点だと考えています。

逆に言えば、ある段階では環境負荷が高いとしても、別の段階で非常に大きなリターンがあるとすれば、トータルで見た場合に地球に対して良い効果があると言えるかもしれません。ライフサイクルで考えた場合の温暖化ガス排出量を、数値で表していくことが重要です。

当社の製品でもこの値を出していますし、もちろん他のベンダーでも同様の数値を発表しています。しかし現在は算出方法の基準が無く、明確に比較ができないという問題があります。これについても「産学官」が一体となって基準作りを推し進めていくべきではないでしょうか。基準が浸透し、評価指標になることで、市場に競争原理が働くようになります。早い段階で、このサイクルが動き出すところまで進めていくことが重要です。

グリーンITは、都市デザインも変革する

江崎氏 エコシステムを考える場合、「環境デザイン」という視点も非常に重要です。たとえば現在の東京は、明確な都市デザインに基づいて設計されていないにも関わらず発展を遂げている。その理由が、実は江戸の町が作られた際のコンセプトがすばらしかったからだ、とする説があります。一般的な昔の町作りは、農業を中心に水回りがデザインされていましたが、江戸の場合は水路が物流を目的として設計されたため、現在の東京がそのまま機能している、という話です。

しかしITの利用が進んだ現在でも、このデザインが通用するかどうかは疑問です。エネルギーの供給と消費は、人の活動そのものに影響されます。コンピュータを誰がどのように利用しているか、という情報を得ることができれば、よりよいインフラストラクチャのデザインを行える可能性がでてくるのです。

実は東京大学というのは、東京都の中でもっとも電力を消費している施設だそうです。エネルギーの消費という点では省エネ化を考えるべきでしょう。一方でエネルギー供給を考えた場合、もしかすると構内に発電所を置くことが効率的なのかもしれません。同様のことが「産」の分野ではファクトリーオートメーションの視点から議論されていることと思いますがいかがでしょうか。

竹村氏 もちろん議論を行っていますが、それ以上に今チャレンジしているのがワークスタイルの変革という点です。人の活動そのものを変えて行くことで、結果として現場のデザインや使用するエネルギーも変わります。

例えば当社では、シンクライアント化を急速に進めています。これは個人情報保護に代表されるようなセキュリティ面の発想からスタートしたものですが、必要な書類やデータをデータセンターに集約することで、社内のフリーアドレス化とサテライトオフィス化が実現しました。結果として、フロアスペースが33%削減でき、お客様の対応時間は30%増加したという成果が出ました。また、当社の開発した環境評価手法によれば、CO2排出量が31%削減したという結果も出ました。
これはデータセンターに書類やデータを集約することによって、ワークシェアやファイルシェアを積極的にやらざるを得なくなったことが大きな要因だと考えられます。提案書や見積りの作成といった、それまでバッチ処理で行っていたものが共同作業によって半分以下の時間で行えるようになりました。作業時間の削減はエネルギーの削減に直結します。

今のところグリーンITにどの程度貢献するかと言う標準的な指標はないのですが、定量的に評価する環境ができてくると、ワークスタイルの変化が環境に与える影響を判断できるようになると思います。

江崎氏 データの集約がワークスタイルを変化させ、エネルギー消費を抑えるというのは非常に興味深いお話ですね。SaaSや仮想化も同様の効果をもたらすかもしれません。たとえば100台あったサーバを10台に集約するなど、データセンターに集約した資源を仮想化してできるだけ共有していくという考え方は、グリーンITとSaaSが同じ目的を持って進歩していく推進剤になるのではないでしょうか

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