Interop Tokyo 2008 コンファレンスの見どころ
Interop Tokyoのコンファレンスは、ネットワーク業界の最新動向・技術を最先端に関わるスペシャリストが参加・講演する、真に今必要な情報満載のプログラムだ。2008年のコンファレンス・プログラムの内容について、プログラム委員会議長の江崎 浩氏に話を伺った
“エグゼクティブ&エンタープライズ”がキーワード
2008年のコンファレンスで大きく舵を切ったのは、よりビジネスに直結したエグゼクティブクラスの人が参加できるプログラムを導入するということでした。
これまでのコンファレンスでは、いわゆるISPやパブリックインフラストラクチャの話題が中心で、エンタープライズ系のネットワークへの取り組みの弱さが指摘されていました。中小企業や大企業の現場には今どのような技術が必要で、どういったネットワークを構築するかといった視点を持とう、というのが今回のコンセプトの1つとなっています。
ネットワークの最新技術が活用される主戦場となるのは、「企業」の「現場」なのです。これまでInterop Tokyoで取り上げてきた様々なテーマやキーワードが今年いよいよ実際のビジネスに結びつき、展開しつつあると言えるでしょう。
またエグゼクティブ、そしてエンタープライズというキーワードは、CIOやCEOを意識しているということに他なりません。現場だけでなく経営者の視点からネットワークを見て、どのように管理、ガバナンスを考えていくのかが今後のネットワーク業界に求められると考えています。
仮想化、グリーンIT、そして変わらぬ現場への情報発信
2008年のコンファレンスには3つの柱があります。
まず1つ目の柱は「仮想化」です。技術系ではネットワークの仮想化が今ホットな話題でしょう。またビジネスの面から見れば「SaaS(Software as a Service)」を見直すべき時期に入っていると思います。
2つ目の柱は「グリーンIT」です。昨年に引き続きプログラムの検討をはじめた段階から取り上げていたのですが、実は今のように注目されるキーワードになるとは考えていませんでした。社会的に必要性が認められるようになった中で、Interopとして技術と考え方の両面から取り組んでいきます。
実は仮想化とグリーンITは非常に密接した関係にあると考えています。例えばグリーンITの実現に向けて一番大きなポイントは、IDCの省エネルギー化です。この解決策の1つとして仮想化は欠かせないテーマだと言えるでしょう。
3つ目の柱は、やはりInteropとは関係を断つことができない「現場」です。これまでイメージで語られてきた様々な要素が、今現場のエンジニアリングレベルで取り組む必要が出てきています。
次世代を見つめる「Interopらしさ」を追求するセッションも
コンファレンスの目玉とも呼べるのは、現場の人々による数々の「対決」です。例えば「NGN」と「新世代ネットワーク」は今年を象徴する対決と言えるでしょう。
NGN陣営から出されている「リアルタイムの通信信頼性」は、すでにゲーム会社とISPが組むことで実現しています。もう実例として存在しているものに対して「これから取り組む」べきNGNはどう考えているのかをInterop的な切り口でインタビューしたいと考えています。
またNGNの先を行く新世代ネットワークでは本当に何が行われていくのか、といったことも議論の場を設けて明らかにします。そしてInteropとして、NGNや新世代ネットワークに「The Internet」がどう対抗していくのか、といった部分にも踏み込んでいこうと考えています。
さらに話題を深める様々なセッションが目白押し
昨年のプログラムでは、1日で1つのテーマをコンプリートできるようなデザインにしていました。この点は毎年試行錯誤している部分なのですが、今年はテーマを横に見て、2、3日かけて展示会場を含めた形で網羅するような方向性で考えました。
これには、今エンタープライズでITに関わっている人にとって、知るべき情報が広くかつ膨大になってきていることが理由としてあげられます。昔であればトランスポート層の部分だけ知ればよかったものが、上位レイヤーの技術まで含めた知識がないと商品企画や会社の管理といった、ビジネスに直結した部分に踏み込めなくなってきているからです。
そういう意味では、以前は「最新技術を追いかける」ことに主眼を置かざるを得なかったものが、今年からは「結果として今足りないパーツ、ピースを埋めて行く」というプロセスに変わったと言えるかもしれません。
柱の1つとして取り上げているグリーンITでは、中国やドバイなどで様々な取り組みがなされています。それぞれ見据えた方向は違うのですが、そこから日本がどうあるべきかといった内容でお話ができると考えています。
またトラステッドコンピューティングはNGNや新世代ネットワーク、仮想化で取り上げたSaaSとも関連性が深く、これまでのセキュリティとは若干違うイメージで捉えていただきたいものです。「トラスト」というのは非常に良いキーワードで、「セキュリティ」が「安全」というリジッド(=硬い)イメージなのに対して、「トラスト」は「信頼」や「安心」といったフワっとしたイメージのものです。
ナショナルセキュリティのような会社のリスクマネジメントを含めた新しいセキュリティの概念が、今広がってきています。本当にガチガチなものではなく、信頼関係をどう構築するかといった面を見せたいですね。
キャリアに関しては「NGNを本当に動かす」という責任が生まれはじめています。NGNというキーワードに踊らされることなく、実際にNGNをマネジメントしていくかという議論にぜひ参加していただきたいと思います。
また今年も課題としてIPv6への取り組みがあげられます。いよいよ秒読みとなったIPv4の枯渇問題をどうするかを含め、数年ぶりにワークショップを行います。もはや避けることのできないIPv6への対応について具体策を学んでいただける場となるはずです。
また、現在ホットなトピックの1つに「高市法案」があります。情報漏洩やコンテンツの流通という面でP2Pが使えなくなるかもしれない。しかしP2PはグリーンITに対して有用なテクノロジーの1つですし、ネットワークに対してフレンドリーな面があります。実際にInteropが開催されるときにどうなっているかはまだわかりませんが、これは興味を持って参加していただけるテーマでしょう。
P2Pというキーワードが出ましたが、今年はWinnyの開発者である金子氏の講演も用意しています。何が飛び出すか分からないビックリ箱のようなセッションになると思いますので、ぜひ足を運んでください。
今回のプログラム委員会セッションは、「教えてInterop.jp」
プログラム委員会として懸案事項となっていたのが「一方向でプログラムを作っていないか」という点です。そこで今年は、もっと広く参加者の声を聞いてみたいという思いから、「教えてInterop.jp」というセッションにしました。
このセッションは、参加者の方から質問を受け付け、プログラム委員メンバーが回答する、という形で進めます。質問は、すでにメールマガジンやInterop.jpサイトで受け付けています。ここでしか聞けないような質問や意地悪な質問をぜひお寄せいただきたいと思います。いただいた質問にはセッションで答えるだけでなく、来年のInteropの課題にもしていきますし、また場合によっては半年後にそのテーマ単独でコンファレンスを行う、といったこともあるかもしれません。
そして重要な点はInteropに参加する方々の声を我々プログラム委員会がまとめ、様々な議論の現場に持ち込もうということです。例えば「なにも知らない政治家が何故ネット規制の法律を出すんだ」といった「声」があるということを、しかるべき場所で発言することもプログラム委員会がやるべきだと考えているのです。
はじめに3つの柱として「仮想化」と「グリーンIT」「現場」をあげました。それぞれは閉じたキーワードのようですが、非常に密接に関係しあっています。例えばグリーンITを突き詰めて考えれば、ICT産業だけでなく都市設計や地球全体のロジスティクスや交通といったインフラデザインにまで関わるものです。
このグリーンITを実現するには仮想化の技術を欠かすことはできませんし、また現場が取り組まなくてはいけないことなのです。目指す方向が変われば人はもちろん様々な設計も変わってきます。5年後ではなく30年後を見据えた場合には、その変化はより大きなものとなるでしょう。
このようなメッセージをぜひコンファレンスに参加していただき、参加者の皆さんに持ち帰っていただければ嬉しいと考えています。